ダブルマテリアリティ分析が前提である欧州CSRD/ESRSの法令が今年2023年に採択され、2024年から適用開始予定であることから、いよいよ今年発行のレポートではダブルマテリアリティ分析を実施して開示するレポート企業、または準備企業が続々と出てくる可能性があります。

前回の記事では、ダブルマテリアリティの概要、そして分析評価を成功させるための3つのステップを紹介いたしました。

本稿では、具体的な分析評価プロセスを紹介し、実際の作業ポイントを概説いたします。なお、このプロセスはCSRD/ESRSの適用企業を前提にしています。

ダブルマテリアリティ分析評価プロセス

前回の記事でも紹介したように今後の組織運営において、このダブルマテリアリティ分析を前提とした経営戦略や中期計画が求められてくるでしょう。

今年2023年1月1日以降に発行された報告書に適用されるGRI2021は、インパクトマテリアリティが求められています。

また2024年1月1日以降の実質活動から適用される予定の欧州「企業サステナビリティ報告基準」(ESRS)では、ダブルマテリアリティが求められています。

GRIとESRSのマテリアリティ範囲やアプローチは違えども、マテリアリティを特定するプロセスで重要なステークホルダー・エンゲージメントは、両観点において重視されています(ESRSとGRIの関連性についてはこちらから)

こうした法規制やガイドラインの動向を背景に、特にグローバル企業においては、早々にダブルマテリアリティ分析評価を実施することが推奨されています。ただし、どのようなアプローチで評価し、実施するかを決めることは非常に難しいです。

ここでは5つのステップに分けてそれぞれを概説し、重要ポイントを付記します。

ステップ1:バリュー チェーンの影響と、関連するステークホルダーの把握と理解

1-1. バリュー チェーンとステークホルダーの選択

バリュー チェーン全体の影響と関連するステークホルダーを分析し、ステークホルダーの全体的なグループを把握します。 ステークホルダーの関与が限られていると、ギャップが生じる可能性があります。 一方、広範なステークホルダーの関与は、時間と費用がかかる可能性があります。

  • 内部および外部のステークホルダーを特定する
  • 適切なステークホルダーを選択する

ステップ2:ステークホルダー・エンゲージメントを通じて、持続可能性に関するトピックを抽出

2-1. ステークホルダー・エンゲージメント原則

マテリアリティ分析評価を推進するためには、ステークホルダー・エンゲージメントの原則を設定することが重要です。

原則には、ステークホルダー参画のチャネル、各チャネルの参加レベル、評価のどの段階で特定のステークホルダーグループを参画させるか、ステークホルダー参画からの結果の検証方法、重要トピックの項目を抽出、プロセスに関するガバナンス、結果の可視化に関する決定、そしてマテリアリティ分析評価を実施する目的などが含まれます。

2-2. マテリアリティ項目の粒度

トピック(課題)が一般的になりすぎたり (例: 環境)、詳細になりすぎたり (例: CO2排出量) しないようにするには、適切な粒度のバランスを取ることが重要です。 財務とインパクトの両視点から各トピックを定義することは、ステークホルダーが各トピックについて共通の理解を得るために重要です。

2-3. 公正なスコアリング

組織の主観を最小限に抑えるため、強固な採点方法を導入する必要があります。また、定性的なインタビュー結果は、定量的な結果の解釈をサポートすることができます。そのため、外部有識者などとステークホルダー・ダイアログなどを実施することも効果的です。

CSRDでは、実施後3年以内に限定的保証、6年以内に合理的保証が義務付けられているため、特にCSRD適用企業にとってはこのスコアリングで主観を最小限にしてバランスよくトピックを決めることが重要です。

  • 選択した適切なステークホルダーへアウトリーチする
  • ステークホルダーへ適切な質問をする(例:何が企業にとって重要か、あるいは重要である可能性があるか、など)
  • ステークホルダーの洞察を収集する

ステップ3:最も重要なトピックの特定評価

3-1. インパクトマテリアリティのマテリアリティ評価

ステップ2のステークホルダーエンゲージメントで得られた重要トピックをはじめ、ESG評価機関や国際ガイドライン、業界における重要度の検証、広範な社会課題など関連する対外的なマテリアリティを調査分析します。その後、中期経営戦略・計画や事業計画などの対内的な要素を調査します。

3-2. 財務マテリアリティのマテリアリティ評価

組織のリスクが財務的にどの程度影響を受けるか?発生する可能性はどの程度か?ダブルマテリアリティ分析の一つの特徴として、3-1の外部のマテリアリティの評価結果で出てくるであろう、例えば気候変動やサプライヤーの強制労働などの項目に対して、財務的な影響はどのぐらいなのか?

財務的な影響は潜在的に大きく、事業転換せざるを得ない状況になった時の購買コストの上昇やサプライチェーン全体での評判低下やオペレーション回転率の低下などを分析します。

3-3. 時間軸と地理的な視点

CSRDでは、気候変動などの財務的インパクトは年々増加する可能性があるため、短中長期の財務的なインパクトを評価することが求められています(短中長期の計画を提示)。

またグローバルな企業は複眼視点(グローバルとローカル)で影響度を図ることで、その企業の持続可能性に与える影響をどのように考慮しているかがわかります(地理的に異なる気候対策やステークホルダーとの関与など)。

  • インパクトマテリアリティのマイナス側面は規模・範囲・修復可否の視点を含んで特定する
  • 対内的・対外的なマテリアリティの差異を検証する
  • 時間軸(短中長期)と地理的な視点で分析する

ステップ4:戦略とレポートへ統合

4-1. 経営層の関与

マテリアリティ評価の際には、経営層が関与する必要があります。経営層は、プロセスの結果を認識し、どのトピックが財務とインパクトの両観点から重要であるかを理解する必要があります。理解した後は、検証段階にも積極的に関与する必要があります。

CSRD保証が義務化されたということは、マテリアリティ項目だけを開示するだけでは、もはや十分とは言えません。ESRS 1 (3-3. Double materiality)で求められているのは、“The undertaking shall explain how it applies criteria set under sections 3.4 and 3.5 in this [draft] Standard, using appropriate thresholds.” (意訳「事業者は、この[基準案]の3.4項及び3.5項で設定した基準を、適切なしきい値を用いてどのように適用するかを説明しなければならない」。)

またGRI2021でもGRI 3-1 マテリアルな項目の決定プロセスにて特定プロセス全体を文書化することが期待されています。証拠や情報がどのように起用されたのか、適用されたしきい値、それは誰が、なぜ、財務およびインパクト、またはその両方の観点から特定したのか、など。その鍵となるのが、経営層の関与となります。

4-2. 組織横断的に統合し実践

組織のインパクトがもたらす財務的影響が明らかになりつつある中、複数の部門が関与することで、経営判断のための舵取りができるなど、ビジネス全体に明確な利益をもたらすことができます。

4-3. 目的の明確化

コンプライアンス主導のアプローチと、リスクや機会を評価し、企業のESG戦略をさらに発展させたり再構築するための戦略的アプローチとでは、マテリアリティ評価の目的が大きく異なるため、事前に定義を明確にする必要があります。主要なステークホルダーと事前に目的を決定することは、非常に重要です(2-1と関連)。

  • 明確なガバナンスの役割と責任、および分担を確保する
  • 特定プロセス全体にわたって経営層が関与する

ステップ5:継続的なマテリアリティ評価の実施

外部重要性はもとより、内部重要性についても大きく変化していきます。すでに特定した潜在的なサステナビリティの課題がマテリアルとなるしきい値に達しているかどうか、あるいは新しい外部課題が発生し、新しい潜在的なサステナビリティの課題が特定されるかどうか、などを明らかにしなければなりません。マテリアリティは一度特定評価を実施したら終了ではなく、定期的に検証を行うことが必要です。

  • 経年評価を実施し外部有識者などと対話を行い、マテリアリティの影響度を分析する

このようなステップでサステナビリティに関わる事項が、インパクトの観点、財務の観点のいずれか、あるいは両方の観点から重要である場合、ダブルマテリアリティの基準を満たすことになります。

ダブルマテリアリティ分析評価を実施することにより、組織にとって何が重要であるかに起因するリスクと機会に関する洞察を得ることができます。

何よりもマテリアリティと経営および事業戦略との関連性をより深く理解することで、長期的な企業価値を創造することができます。

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