オムニバス法案に関して、CSRD適用開始時期の延長が確定し、第2・第3グループ企業は当初予定から2年の猶予を得ることとなりました。一方、適用範囲縮小など他の改正案については今後1〜2年の審議が見込まれています。このような状況下、EU加盟国の一つであるフィンランド政府が法案の潜在的影響について概説を公表しました。 

本稿ではその内容とそこから見えてくる今後の対応を検討します。 

法案可決時の5つの懸念点 

情報開示の質的低下と金融安定性への懸念

CSRD対象企業が約80%減少することで、企業レジリエンスに関する重要情報が大幅に減少。これにより投資家のリスク評価能力が低下し、間接的に金融市場の安定性にも悪影響を及ぼす可能性があります。 

データ収集コストの転嫁問題

対象外となった企業からも引き続き非財務情報の収集が必要なため、金融機関や保険会社は別途データ収集を行う必要が生じます。この結果、コスト負担が単に別の形で企業や金融機関に転嫁される懸念があります。 

欧州グリーンディール目標への整合性欠如 

持続可能な投資に資本を誘導するという欧州の中核目標「グリーンディール」において、企業のサステナビリティ情報は不可欠です。しかし、欧州委員会は開示対象企業の大幅削減後もこれらの目標をどう達成するのか明確な道筋を示していません。 

代替的な負担軽減策の検討不足 

適用範囲の縮小以外にも、報告要件の明確化、定義の標準化、ガイドラインの充実、比較可能性の向上など、企業負担を軽減する選択肢が存在します。しかし、これらの代替案に対する十分な評価がなされていません。 

タクソノミー報告の有効性低下

EUタクソノミー報告を最大手企業のみに限定することで、持続可能な投資を導くツールとしての機能が大きく損なわれる恐れがあります。フィンランドでは対象企業が1300社から130社未満へと90%減少する見込みです。

日本企業にとっての戦略的示唆 

フィンランド政府の分析は、単純な「規制緩和」がもたらし得る予期せぬ結果を浮き彫りにしています。企業負担軽減という目標自体は重要ですが、それが欧州の持続可能な金融や経済システム構築という根本的な目標を損なうようでは本末転倒です。 

今後の議論では、報告対象企業数を維持しつつも、報告プロセスの効率化や明確化を図る「スマートな簡素化」が求められるでしょう。政策立案者には、短期的な負担軽減と長期的なサステナビリティ目標のバランスを取った実用的な解決策の創出が期待されています。 

日本企業も、単に規制対象になるかどうかではなく、情報開示の戦略的価値の認識や、データ収集・管理体制の整備、さらにはグローバルサプライチェーンでの位置付けの把握など、市場からの実質的な要請と事業機会を見据えた戦略的対応が重要となるでしょう。 

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