2025年12月3日、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の最終簡素化版を正式公開しました。2023年に公開された現行基準と比較して、要求データポイントが約61%削減され、CSRD対応企業の実務負担が大幅に軽減されます。
本稿では、最終簡素化版の8つの主要なポイントと、各基準別の重要な変更点としての概要をお伝えします。
簡素化の8つのポイント
1. 有用な情報への焦点を強化
- 情報の関連性と適切な表示に関する厳格なフィルタリングを強化
- コンプライアンス重視の形式的な報告から、実質的に価値のある明確な報告へと転換
2. マテリアリティ評価の簡素化
- 評価プロセスを理解しやすくするための、より明確なガイダンスの提供
- 不要な文書化作業を削減し、実務負担を軽減
- 監査対応を明確化し、監査側の期待との整合性を高める
3. バリューチェーンデータへの負担軽減
- 直接データ収集の優先要件を撤廃し、サプライチェーン全体からのデータ収集負担を大幅に軽減
- 推計値や代替手法の活用をより柔軟に認めることで、実務的な対応が可能
4. 大幅な緩和措置と段階的導入
- 比例性メカニズムを導入し、企業規模や事業特性に応じた柔軟な対応が可能
- 困難な開示項目への移行期間を設定し、段階的な準備プロセスを整備
- 「不当なコストまたは過度な努力」原則を明確化し、実務上の負担を合理的に軽減
5. 原則ベースのナラティブ報告の強化
- 方針、行動、目標(PAT’s)の開示項目において柔軟性をもたせ、形式的な報告から実質的に価値のある報告へと転換(組織にPAT’sがある場合のみ開示)
- 企業がサステナビリティ課題をどのように管理しているかの説明に焦点を当て、企業の対応状況をより分かりやすく伝える
6. より短く明確な基準
- ESRS全体を合理化し、専門家でなくても理解しやすい表現へと改善
- 実務での実施が容易になるよう、基準文書そのものを簡潔化し、効率的かつ一貫した運用を支援
7. データポイントの大幅削減
- マテリアルと判断された場合に要求されるデータポイントを61%削減
- すべての任意開示を削除し、報告に必要なデータポイントを大幅に簡素化
8. ISSBとの相互運用性の向上
- 共通開示項目における整合性を向上させ、重複開示の負担を軽減
- GHG排出量の報告境界を改善し、IFRS S2との整合性を強化
- 予想される財務影響に関する規定をISSB基準と整合させ、グローバルな報告の一貫性を実現
トピック基準別の変更点の概要
| 基準 | 修正項目 | 新規項目 |
| ESRS 1 | ・マテリアリティ評価の簡素化(範囲外のデータポイントは開示不要) ・より明確な報告境界と「自社事業」と「バリューチェーン」の区別 ・報告の粒度の柔軟性 ・段階的導入措置の見直し(ただし、適用状況の開示と段階的な改善が期待される) | ・「公正な表示」の明示的強調 ・IFRS S1との整合 ・影響のマテリアリティを評価する際の予防、軽減、是正措置の考慮方法に関する原則ベースのガイダンス ・バリューチェーン指標における直接データの体系的な優先削除 |
| ESRS 2 | ・ (BP)ESRS 1参照による簡素化と段階的導入措置の反映 ・(GOV)ナラティブ要件の粒度削減、GOV-1とGOV-2の統合 ・(SBM)ビジネスモデルとステークホルダー情報を簡素化、予想財務影響は2029年まで段階的導入でIFRS S1と整合 ・(IRO)粒度を削減しつつDMAプロセスの核心は維持、SBM-3から情報を再配置 | |
| ESRS E1 | ・(戦略)移行計画をIFRS S2と整合し簡素化、シナリオ分析は任意と明確化 ・(PATs)ESRS 2との重複削減、金融機関のScope 3換算義務免除、基準年の柔軟化、1.5°C整合性は維持 ・(指標)エネルギー原単位削除、GHG報告境界の明確化 | |
| ESRS E2 | ・マテリアルな汚染物質の特定をガイド ・マイクロプラスチックを一次・二次に分割(二次は定性開示可) ・懸念物質指標を精緻化し内訳明示、非化学企業はSVHC(極めて懸念度の高い物質)のみ、化学企業のSoC(懸念物質)要件は段階導入 | |
| ESRS E3 | ・水概念と評価方法を明確化 ・取水・排水量を義務化 ・水原単位の削除 ・方法論ガイダンス追加 | |
| ESRS E4 | ・移行計画を条件付きで義務化 ・方針・行動・目標を簡素化しつつオフセット仕様は維持 ・場所固有開示を統合 | |
| ESRS E5 | ・「主要材料」を定義(附属書II) ・生物学的/技術的材料別の内訳削除 ・二次資源は重量または割合を表示 | ・(E5-5)新データポイントとして最終処分先の不明な廃棄物の割合 |
| ESRS S1〜S4 | ・人権方針をESRS 2に集約 ・エンゲージメント関連のDRを統合 ・主要な指標(男女間の賃金格差、報酬比率、健康と安全など)を保持 ・人権インシデント範囲を明確化 ・ (S1-9)ILOの原則に基づいて、EU圏外で「適切な賃金」を定義するための新しい基盤を導入 | ・(S1-15)調整済み賃金格差の説明をARに追加 ・(S1-16)人権インシデントを「実証済」「国際的に認められた人権」「重大性評価」に厳格化 |
| ESRSR G1 | ・(G1-1〜3) PAT構造に再構成しサプライヤー・汚職・内部告発に焦点 ・(G1-4)インシデント範囲の明確化 ・(G1-5&6)中小企業に焦点を当ててデータポイント簡素化 |
次のステップと日本企業への影響
欧州委員会による法制化プロセス
欧州委員会は、EFRAGが提供した技術的助言に基づき、現行のESRS第一セットを改訂する委任法令(Delegated Act)を策定します。この委任法令により、簡素化版ESRSが正式に法制化されることになります。
EFRAGによる実務支援
EFRAGは、今回の簡素化版ESRSの正確な理解と適切な適用を促進するため、実務ガイダンス「ESRS Knowledge HUB」を開設しました。よくある質問(Q&A)への回答、教育・研修資料などを継続的に提供し、企業の円滑な実施対応を支援していきます。
日本企業が注視すべきポイント|CSRD域外適用のNESRS対応
この簡素化版ESRSをベースに、域外適用企業向けの基準(NESRS: Non-EU ESRS)が別途策定される予定です。 2028年度(2029年報告開始)からCSRD域外適用の対象となる日本企業にとって、以下の動向を注視する必要があります。
- NESRS(域外適用基準)の策定スケジュール(2027年10月1日まで採択延期)と具体的内容
- 欧州委員会による委任法令の正式採択時期(2026年第2四半期の予定)
- EFRAGが提供する実務ガイダンスの内容
