【2026年7月3日更新】ESRS簡素化版、欧州委員会が正式採択
2026年7月3日に欧州委員会により正式採択されました。2025年12月に欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が提出した技術的助言をもとに、欧州委員会が一部修正を加えた上で採択したものです。この後、2か月間の精査期間に入り、その間、共同立法者である欧州議会と理事会から異議なく成立すれば、第4四半期中には官報への掲載が完了する見込みです。

本稿では、採択版の8つの主要なポイントと、各基準別の重要な変更点の概要をお伝えします。

簡素化の8つのポイント 

1. 有用な情報への焦点を強化

  •  情報の関連性と適切な表示に関する厳格なフィルタリングを強化 
  • コンプライアンス重視の形式的な報告から、実質的に価値のある明確な報告へと転換 
  • 【追加項目1】公正な表示の適用単位を明確化
  • 【追加項目2】重要性のない情報の取り扱いを厳格化:「開示してはならない(shall not)」

2. マテリアリティ評価の簡素化

  • 評価プロセスを理解しやすくするための、より明確なガイダンスの提供 
  • 不要な文書化作業を削減し、実務負担を軽減 
  • 監査対応を明確化し、監査側の期待との整合性を高める 
  • 【追加項目1】トップダウン・アプローチの位置づけを明確化:個々の影響・リスク・機会を一つひとつの評価不要
  • 【追加項目2】集約・分解レベルの裁量拡大

3. バリューチェーンデータへの負担軽減 

  • 直接データ収集の優先要件を撤廃し、サプライチェーン全体からのデータ収集負担を大幅に軽減 
  • 推計値や代替手法の活用をより柔軟に認めることで、実務的な対応が可能 
  • 【追加項目1】情報省略規定の新設:一定の条件下でバリューチェーンを含む情報の省略を認める規定を新設
  • 【追加項目2】資産運用業務における新規免除:当該投資に関する情報をサステナビリティ声明で開示しないことを認める規定を新設

4. 大幅な緩和措置と段階的導入 

  • 比例性メカニズムを導入し、企業規模や事業特性に応じた柔軟な対応が可能 
  • 困難な開示項目への移行期間を設定し、段階的な準備プロセスを整備 
  • 「不当なコストまたは過度な努力」原則を明確化し、実務上の負担を合理的に軽減 
  • 【追加項目1】適用時期が確定:義務適用は2027年1月1日以後開始事業年度から。2026年1月1日〜12月31日開始事業年度は任意早期適用が可能
  • 【追加項目2】2026年度に限った8つの経過的緩和措置が確定(旧基準のまま2026年度に適用する企業向け)
  • 【追加項目3】予想財務影響の段階的導入期間が延長:第1グループの定性情報は2028年度まで、定量情報は最長2030年度まで。中小規模企業は、報告開始後2〜4年間の猶予

5. 原則ベースのナラティブ報告の強化 

  • 方針、行動、目標(PAT’s)の開示項目において柔軟性をもたせ、形式的な報告から実質的に価値のある報告へと転換(組織にPAT’sがある場合のみ開示) 
  • 企業がサステナビリティ課題をどのように管理しているかの説明に焦点を当て、企業の対応状況をより分かりやすく伝える 
  • 【追加項目1】予想財務影響は「見積り」であることを明確化:将来の情報更新により数値が変わっても、報告上の「誤り(error)」には該当しないことを明記
  • 【追加項目2】気候移行計画における透明性要求(ナラティブ):目標値と参照値の比較などの考慮方法についての理由説明を新たに要求

6. より短く明確な基準 

  • ESRS全体を合理化し、専門家でなくても理解しやすい表現へと改善 
  • 実務での実施が容易になるよう、基準文書そのものを簡潔化し、効率的かつ一貫した運用を支援 

7. データポイントの大幅削減 

  • マテリアルと判断された場合に要求されるデータポイントを61%削減 
  • すべての任意開示を削除し、報告に必要なデータポイントを大幅に簡素化 

8. ISSBとの相互運用性の向上

  •  共通開示項目における整合性を向上させ、重複開示の負担を軽減 
  • GHG排出量の報告境界を改善し、IFRS S2との整合性を強化 
  • 予想される財務影響に関する規定をISSB基準と整合させ、グローバルな報告の一貫性を実現 
  • 【追加項目1】GHG報告境界の選択肢を確定
  • 【追加項目2】汚染物質のマテリアリティ判断基準を明確化
  • 【追加項目3】CSDDDとの整合性強化

トピック基準別の変更点の概要

基準2025年12月版2026年7月採択版
ESRS E1・(戦略)移行計画をIFRS S2と整合し簡素化、シナリオ分析は任意と明確化 
・(PATs)ESRS 2との重複削減、金融機関のScope 3換算義務免除、基準年の柔軟化、1.5°C整合性は維持 
・(指標)エネルギー原単位削除、GHG報告境界の明確化 
・GHG報告境界の柔軟性を確定:
financial control approach(GHGプロトコル基準)に加え、equity share approachまたはoperational control approachのいずれかを選択可能
・気候移行計画の透明性規定を新設:
1.5℃と整合しないGHG削減目標を含む移行計画を開示する場合、目標値と参照値の比較や将来動向の考慮方法について説明することを要求
ESRS E2・マテリアルな汚染物質の特定をガイド 
・マイクロプラスチックを一次・二次に分割(二次は定性開示可) 
・懸念物質指標を精緻化し内訳明示、非化学企業はSVHC(極めて懸念度の高い物質)のみ、化学企業のSoC(懸念物質)要件は段階導入 
・マテリアルな汚染物質の特定基準:
企業の事業活動・セクターを考慮した経営陣によるマネジリアル・アセスメントに基づくべき旨を明記
・マイクロプラスチック:
一次マイクロプラスチックの製造・使用量および環境への直接放出量の開示のみに限定(二次は指標開示要求自体なし)へ変更
・SVHC:
当該物質を含む物品の利用者である企業について1年間の新規段階的導入措置を追加(2028年度まで省略可能)。SoC定量情報は2030年度まで段階導入
ESRS E3・水概念と評価方法を明確化 
・取水・排水量を義務化 
・水原単位の削除 
・方法論ガイダンス追加 
実質的な追加変更なし
ESRS E4・移行計画を条件付きで義務化 
・方針・行動・目標を簡素化しつつオフセット仕様は維持 
・場所固有開示を統合 
・第1グループは2027年度より前、中小規模企業は報告開始後最初の2年間、DR全体を省略可能とする経過措置を確定
ESRS E5・「主要材料」を定義(附属書II) 
・生物学的/技術的材料別の内訳削除 
・二次資源は重量または割合を表示 
・(E5-5)新データポイントとして最終処分先の不明な廃棄物の割合 
実質的な追加変更なし
ESRS S1〜S4 ・人権方針をESRS 2に集約 
・エンゲージメント関連のDRを統合 
・主要な指標(男女間の賃金格差、報酬比率、健康と安全など)を保持 
・人権インシデント範囲を明確化 
・ (S1-9)ILOの原則に基づいて、EU圏外で「適切な賃金」を定義するための新しい基盤を導入 
・(S1-15)調整済み賃金格差の説明をARに追加 
・(S1-16)人権インシデントを「実証済」「国際的に認められた人権」「重大性評価」に厳格化 
・(S1-16)「実証・検証済み(substantiated verified)」の事案のみを報告対象とする旨をさらに厳格化し、「開始された(initiated)」との表現を削除
・own workforceの一部データポイント(S1-6、S1-7の非EEA域内従業員分、S1-10〜14の一部)について大企業は2027年度より前、中小規模企業は初年度を省略可能とする経過措置を確定
・S2〜S4のDR全体について、大企業は2027年度より前、中小規模企業は最初の2年間、省略可能な経過措置を確定
ESRS G1・(G1-1〜3) PAT構造に再構成しサプライヤー・汚職・内部告発に焦点 
・(G1-4)インシデント範囲の明確化 
・(G1-5&6)中小企業に焦点を当ててデータポイント簡素化 
実質的な追加変更なし

EFRAGによる実務支援 

EFRAGは、今回の簡素化版ESRSの正確な理解と適切な適用を促進するため、実務ガイダンス「ESRS Knowledge HUB」を開設しました。よくある質問(Q&A)への回答、教育・研修資料などを継続的に提供し、企業の円滑な実施対応を支援していきます。 

日本企業が注視すべきポイント|CSRD域外適用のNESRS対応 

この簡素化版ESRSをベースに、第三国企業向けの基準(NESRS: Non-EU ESRS→ESRS-TC=ESRS for Third Country Group)が別途策定されています。 2028年度(2029年報告開始)からCSRD域外適用の対象となる日本企業にとって、以下の動向を注視する必要があります。

  • 第三国企業向けの策定スケジュール(2027年中頃まで採択延期)と具体的内容 
  • EFRAGが提供する実務ガイダンスの内容(上記のハブを注視)