【2026年6月3日最新情報】EFRAGによるNESRSの最新動向が発表されました。採択時期は2027年中頃の見通しとなっています。
【2025年10月】欧州委員会は、NESRS(非EU企業向け持続可能性報告基準)の採択時期を少なくとも2027年10月1日まで延期すると発表しました。当初の採択予定であった2026年6月から約1年半延期となりました。

※2025年12月3日に公開されたESRS簡素化版の概要についてはこちら
※2025年12月16日に承認されたオムニバス簡素化パッケージの概要についてはこちら
最新の審議状況・日程については、【随時更新ページ】をご覧ください(最終更新:2026年6月3日)。

本稿では、延期決定の背景、NESRS最新動向、対象企業要件の変更、そして延長された準備期間を戦略的に活用する方法を解説します。

NESRS採択延期の詳細と背景

2025年10月6日、欧州委員会は欧州立法プロセスレベル2の優先度を引き下げ、NESRSの採択時期を当初の2026年6月から少なくとも2027年10月1日まで延期することを発表しました→2027年中頃の見通し(2026年6月3日時点)。この延期は、CSRD関連のオムニバス法案による規制簡素化の議論が続いていることが背景にあります。

採択時期は延期されましたが、2028年度データに基づく2029年1月1日からの開示義務化スケジュールは2025年10月現在で変更されていません

この延期により、対象となる可能性のある日本企業には、データ収集システム整備の時間的余裕、オムニバス法案の最終内容を見極めた対応、選択的開示オプションの戦略的検討期間の確保といったメリットがあります。

NESRS対象企業要件:オムニバス法案による大幅変更

NESRS対象企業の要件は、オムニバス法案によるEU圏内の純売上高要件の引き上げです。

要件項目現行法オムニバス法案
EU圏内純売上高非EU親会社:EU域内売上高1億5000万ユーロ超
EU子会社・支店:EU域内売上高4000万ユーロ超
非EU親会社:EU域内売上高4億5000万ユーロ超(2期連続)、かつ非上場
EU子会社・支店:EU域内売上高2億ユーロ超
適用開始2028年1月1日同左
開示開始2029年1月1日同左

売上高要件が3倍に引き上げられたことで、対象企業数はオムニバス前の約1万社からオムニバス後は約1,200社へと大幅に縮小しました。その中で日本企業は100〜150社と推定されています。

1. NESRS開示内容:義務開示項目 インパクト情報のみ開示

CSRD指令Article 40aは、Article 29a(2)の以下の項目を準用します

  • (b) 時限付きサステナビリティ目標・GHG削減目標(2030/2050)
  • (c) 経営・監督機関の役割と専門性
  • (d) サステナビリティ方針
  • (e) 報酬制度とサステナビリティの連動
  • (f) デューデリジェンスプロセス、主要な顕在的・潜在的なマイナスインパクト、対応措置
  • (h) (a)〜(g)に関連する指標

2. 報告範囲の選択肢

CSRD指令Article 40a対象企業には以下3つの報告オプションが検討されています。

オプション内容
1. グローバルアプローチ全トピックをグループ全体(グローバル)レベルで報告
2. 混合アプローチ気候はグローバルレベルで報告。それ以外のトピックはEU関連インパクトに限定するオプションあり(条件:インパクトが別セグメント・製品等で個別管理されていること。トピックごとに柔軟に選択可)
3. フルESRS(任意)ESRSを完全適用。非EU親会社がフルESRSを適用した場合、Article 19a/29a対象のEU子会社は子会社免除を享受可能(ただし親会社のフルESRS適用が条件)

混合アプローチにおけるEU関連インパクトは、以下の両方を含むと定義されています。
顧客ベース:EU市場向け製品・サービスから生じるインパクト
市場ベース:EU域内での事業活動によるインパクト

混合アプローチについては、フィールドテストおよびパブリックコンサルテーションの主要検討トピックの一つとなっており、上記の内容は未確定で協議中であります。

3. IFRSとの相互運用性

IFRSとESRS間では相互運用性は維持されますが、NESRSではインパクトの開示のみとなるため、IFRSのリスク機会関連の項目が除外されます。

共通項目

  • ESRS 2/IFRS S1(一般開示):ガバナンス、リスク管理、目標
  • ESRS E1 / IFRS S2(気候開示):移行計画、カーボンクレジット、GHG排出量・削減目標

相違項目

  • IFRS報告のみE1-2、E1-3、IRO-1(リスクと機会関連)→ N-ESRSでは除外(インパクト開示のみのため)
  • N-ESRSのみ:追加開示として、エネルギー消費・ミックス、ロックイン排出量、1.5℃適合性、バイオジェニック排出量、GHG除去、化石燃料セクターへの関与 等

この相互運用性についてもコンサルテーションの主要検討トピックとして挙げられており、ダブル報告回避の選択肢として、IFRSレポートへの組み込みが選択肢の一つとなっており、現在協議中です。

日本企業が延期期間中に取るべき戦略的対応

1. 準備期間を活用したデータ基盤整備

28年度に向けて今からデータ収集・管理システムの基盤整備に充てることが最優先です。環境データ(CO2排出量、エネルギー使用量、廃棄物など)の収集体制を構築し、データの正確性と追跡可能性を確保します。特にScope3データの収集には時間がかかるため、サプライヤーとの協力体制を早期に構築することが重要です。

2. オムニバス法案確定を見据えた体制構築

オムニバス法案の最終内容が確定するまで、柔軟に対応できる社内体制を構築しておくことが重要です。サステナビリティ報告の責任部署、承認プロセス、内部統制の枠組みを明確化し、規制確定後に迅速に対応できる準備を整えます。また、EU現地子会社との連携体制を強化し、現地特有のマテリアリティ事項を事前に把握しておくことも効果的です。

3. 選択的開示オプションの戦略的検討

EU向け販売以外の影響を除外する選択肢について、自社にとって最適な戦略を検討する時間が得られました。この選択肢を活用することで開示負担は軽減されますが、グリーンウォッシングとみなされるリスクや、グローバルな投資家からの評価への影響も考慮する必要があります。単なるコンプライアンス対応ではなく、企業の透明性と信頼性を確保する観点から、どの範囲まで開示するかを戦略的に判断することが重要です。

4. 判断プロセスの文書化を今から習慣化する

NESRSおよびCSRD対応で見落とされがちなのが、開示内容そのものより判断に至った経緯の文書化です。制度確定後に遡及的に再構築しようとすると、過去の判断を証明できず大きな負担が生じます。将来の第三者保証では「何を開示したか」だけでなく「なぜそう判断したか」が問われます。今から意思決定の記録・承認フロー・判断根拠の保存を社内プロセスとして定着させることが、保証対応を最もコスト効率よく準備する方法です。