【2025年10月最新情報】欧州委員会は、NESRS(非EU企業向け持続可能性報告基準)の採択時期を少なくとも2027年10月1日まで延期すると発表しました。当初の採択予定であった2026年6月から約1年半延期となりました。

最新の審議状況・日程については、【随時更新ページ】をご覧ください(最終更新:2025年10月22日)。

本稿では、延期決定の背景、NESRS最新動向、対象企業要件の変更、そして延長された準備期間を戦略的に活用する方法を解説します。

NESRS採択延期の詳細と背景

2025年10月6日、欧州委員会は欧州立法プロセスレベル2の優先度を引き下げ、NESRSの採択時期を当初の2026年6月から少なくとも2027年10月1日まで延期することを発表しました。この延期は、CSRD関連のオムニバス法案による規制簡素化の議論が続いていることが背景にあります。

採択時期は延期されましたが、2028年度データに基づく2029年1月1日からの開示義務化スケジュールは2025年10月現在で変更されていません

この延期により、対象となる可能性のある日本企業には、データ収集システム整備の時間的余裕、オムニバス法案の最終内容を見極めた対応、選択的開示オプションの戦略的検討期間の確保といったメリットがあります。

NESRS対象企業要件:オムニバス法案による大幅変更

NESRS対象企業の要件は、オムニバス法案によるEU圏内の純売上高要件の引き上げです。

要件項目現行法オムニバス法案
EU圏内純売上高1億5000万ユーロ超4億5000万ユーロ超
適用対象EU域外企業同左
適用開始2028年1月1日同左
開示開始2029年1月1日同左

売上高要件の3倍への引き上げにより、対象企業数は大幅に減少し、真にEU市場で大規模な事業展開を行う企業に焦点が絞られます。中規模のEU事業を持つ日本企業にとっては大きな負担軽減となりますが、自社が対象要件に該当するか否かを早期に判断し、適切な準備を進めることが重要です。

NESRS第一次草案の重要論点:選択的開示オプション

承認された第一次草案の最も重要な論点は、EU向け販売に関連しない影響を開示対象から除外できる選択肢の導入です。この選択肢により、9つのトピック基準で該当情報の開示が免除されますが、NESRS1および2(一般開示要求事項)、ならびに気候基準(NESRS E1)は対象外となります。

つまり、気候変動については全世界的な影響の開示が必須ですが、その他の環境・社会トピックについてはEU向けビジネスに限定した開示が可能になります。

この選択的開示オプションについては、SRBメンバー内でも意見が分かれています。複雑なバリューチェーンでの適用困難性や、EU域内外で異なる基準が適用されることによるグリーンウォッシング助長の懸念が指摘されています。

これに対し、新たに追加された条項では、EU向けの影響とそれ以外の区別が不明確な場合、グローバルレベルでの影響を報告することが求められると規定されました。SRBの承認投票では、13名が賛成、3名が留保意見、4名が棄権という結果でした。

日本企業が延期期間中に取るべき戦略的対応

1. 延長された準備期間を活用したデータ基盤整備

採択延期により得られた約1年半の猶予期間を、データ収集・管理システムの基盤整備に充てることが最優先です。環境データ(CO2排出量、エネルギー使用量、廃棄物など)の収集体制を構築し、データの正確性と追跡可能性を確保します。特にScope3データの収集には時間がかかるため、サプライヤーとの協力体制を早期に構築することが重要です。

2. オムニバス法案確定を見据えた体制構築

オムニバス法案の最終内容が確定するまで、柔軟に対応できる社内体制を構築しておくことが重要です。サステナビリティ報告の責任部署、承認プロセス、内部統制の枠組みを明確化し、規制確定後に迅速に対応できる準備を整えます。また、EU現地子会社との連携体制を強化し、現地特有のマテリアリティ事項を事前に把握しておくことも効果的です。

3. 選択的開示オプションの戦略的検討

EU向け販売以外の影響を除外する選択肢について、自社にとって最適な戦略を検討する時間が得られました。この選択肢を活用することで開示負担は軽減されますが、グリーンウォッシングとみなされるリスクや、グローバルな投資家からの評価への影響も考慮する必要があります。単なるコンプライアンス対応ではなく、企業の透明性と信頼性を確保する観点から、どの範囲まで開示するかを戦略的に判断することが重要です。

NESRS今後のスケジュール

EFRAG事務局はSRB承認を受けて「結論の根拠」を作成し、公募とともに公表する予定です。ただし、公募開始時期は欧州委員会が最終決定するため、採択延期に伴い公募プロセスのスケジュールも調整される可能性があります。

この基準は、オムニバス簡素化パッケージ同様に今後も透明性や公平性の確保をめぐる議論が続く見込みです。日本企業としては、これらの動向を継続的に把握し、自社の報告戦略に反映させていくことが求められます。