2026年7月2日、EUのESG格付け規制(規則(EU) 2024/3005)が適用開始されました。この承認により、EU域内で活動するすべてのESG格付けプロバイダーが、欧州証券市場監督機構(ESMA)による直接監督の対象となり、長年指摘されてきた格付けの透明性・一貫性・信頼性の欠如という課題への対応が図られることになりました。
今回の規制は、ESG格付けプロバイダーに対する認可・登録制度の導入、開示要件の強化、そして経過措置のスケジュール設定を含んでいます。国内当局を介さず、ESMAが単独で直接監督する点も特徴です。
本稿では、格付け規制の概要と、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)報告への接点も含めた企業への影響について解説します。
ESG格付け規制の概要と企業への影響
監督体制
概要:
- ESMAが単独で直接監督(国内当局の関与なし)
- 第三国プロバイダーは同等性・承認・認定の3方式で対応
企業への影響:
MSCI、Sustainalytics、CDP、EcoVadisなど主要プロバイダーはすでに通知手続きを進めており、2026年8月13日時点で100社近くが通知を完了しています。ただし、リストに掲載されているのは各グループのEU域内法人であり、日本支社などEU域外法人自体は別途掲載されません。グループ内のEU法人が域外拠点の格付けを引き受ける仕組み(エンドースメント制度、第11条)もあるため、大手プロバイダーの継続利用に大きな支障は見込まれませんが、自社が利用する格付け機関の手続き状況は把握しておくことが望ましいといえます。
経過措置スケジュール
概要:
- 通常プロバイダー:2026年8月2日までに通知、7月2日から4ヶ月以内(11月2日まで)に認可・承認申請
- 小規模プロバイダー:2026年11月2日までの通知のみ
企業への影響:
2026年11月2日以降、ESMAの公開登録簿に掲載されていないプロバイダーは事業継続ができなくなります。自社が利用する格付け機関が期限内に手続きを完了しているか、11月以降改めて確認することが望ましいです。
開示要件とESRSとの接続
概要:
- E・S・G要因ごとの重み付けの開示義務
- データソースの開示(ESRSサステナビリティ声明由来かどうかを含む)
- リスク・インパクト・ダブルマテリアリティのいずれを評価しているかの明示
企業への影響:
ESG格付けプロバイダーの開示要件がESRS報告と構造的にリンクしたことで、自社のESRSサステナビリティ声明がどのように格付けに利用され得るかを意識した開示設計が重要になります。ESRS報告の完全性・追跡可能性は、法令遵守にとどまらず外部格付けの精度にも影響し得る点に留意が必要です。
企業側の法的位置づけ
概要:
- 本規則は格付けプロバイダーの発行・流通を規律するものであり、格付けを参照する企業側の利用を直接規制する意図はないと明記あり
- 一方で「認可・登録されたプロバイダーと取引すべき」という期待も明記あり
企業への影響:
「格付け引用前の確認が法的義務」というわけではありませんが、投資家・保証プロバイダーによる精査が強まる中、実務上のグッドプラクティスとして自社が利用する格付け機関の状況を確認しておく価値は高いといえます。
なお、現在の通知済みプロバイダーの一覧は経過措置に基づく暫定掲載であり、認可の可否はこれから確定します。また認可後も、重大な違反があればESMAが取り消す権限を持っています(第9条)。「大手プロバイダーを使っているから対応不要」ではなく、今回新たに開示される方法論の中身(重み付け・データソース・評価対象・絶対か相対か)を確認することが重要です。
並行するグリーンウォッシング対策
概要:
- ECGT(消費者エンパワーメント指令)が2026年9月27日に適用開始予定、証拠のない「エコフレンドリー」等の曖昧な表現を禁止
- ESMAがラベルや賞・同業比較などのESGに関する実績表示について、テーマ別ノートを公表(2025年7月、2026年1月)
企業への影響:
格付けの引用だけでなく、自社のサステナビリティコミュニケーション全般において、具体的で検証可能な根拠を伴う表現への見直しが求められます。
まとめ
2026年のESG格付け規制の適用開始は、格付けプロバイダーへの監督強化にとどまらず、ESRS報告の質そのものへの外部からの精査を強める構造的な変化をもたらしています。格付けと開示制度が相互に参照し合う構造が明確になったことで、企業はデータガバナンスの強化、情報源の文書化、責任の明確化をこれまで以上に意識し体制整備を構築する必要があります。
規制の直接的な義務対象は格付けプロバイダーですが、投資家・格付け機関双方からの精査が強まる中、自社のESRS開示とESG格付けの整合性を点検することは、今後の情報開示戦略における重要な論点となります。
Photo by Ruedi von Erlach on Unsplash
