※2025年2月26日に公開されたオムニバス法案の内容についてはこちら
IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)は、グローバルなサステナビリティ報告の枠組みとして重要な位置を占めています。本稿では、両基準の相互運用性について、最新の動向を含めて概説します。
基本的な相互運用性
IFRS/ISSBとESRSは、基本的な枠組みにおいて高い相互運用性を有しています。2022年12月に欧州委員会、EFRAGとISSBは共同で、両基準の相互運用性を最大化し、主要な気候変動開示について整合性を図る共通の目的に向けて取り組むことを発表しました。
特に重要なのは、2023年2月のISSB会合で決定された、特定のISSB基準がない場合にESRSを参照するという方針です。ISSB S1の付録において、企業が投資家の情報ニーズを満たす指標や開示を特定するための指針としてESRSを参照することが決議されました。
目的・方針の共通点と相違点
両基準は以下の点で共通しています。
- 持続可能性に関するリスクと機会への焦点
- 経時比較可能性と接続性の概念
主な相違点は、
- ESRSはより広範なステークホルダーを対象としたダブルマテリアリティを採用
- IFRSのマテリアリティはESRSのダブルマテリアリティの構成要素として含まれる
- ESRSは他社との比較可能性も要求
戦略と報告範囲の類似点
戦略面では、両基準とも
- リスクと機会に関する情報開示
- それらが事業者のビジネスモデルやバリューチェーンに与える影響
- 過年度の計画の進捗状況や戦略的トレードオフ
を開示するよう求めています。
開示要件の相違点
主な相違点は、
- 必須開示項目:ESRSにはマテリアリティ評価の結果に関わらず必須の開示項目リスト(ESRS2の付録C)があり、ESRS2、ESRS E1(気候変動)、ESRS S1-1(従業員に関する方針)/S1-9(ダイバーシティ指標)の開示が必須です。
- 参照基準:IFRSに特定の開示基準がない場合、SASB基準や他の基準設定機関の意見書を参照できます。
- マテリアリティの考え方:ESRSはダブルマテリアリティを採用していますが、IFRSはより投資家視点のマテリアリティを重視しています。
- 報告構成:IFRSでは企業は報告書の構成を自由に決定できますが、ESRSは4つのパート(ガバナンス、戦略、管理、指標と目標)で構成されなければなりません。
気候関連開示(IFRS S2とESRS E1)の比較
IFRS S2の開示要件はすべてESRSでカバーされています。ESRS E1での主な追加要件は、
- 地球温暖化を1.5℃に抑制することとの整合性への言及
- EUタクソノミーの整合比率(Green CapExとOpEx)
- 長期にわたる重大な気候関連リスクによる潜在的財務影響の開示
- 2030年と2050年の目標値を(できれば5年間隔で)設定
- GHG排出削減目標と連動した報酬制度に関する開示
最新動向
2025年2月26日にはオムニバス法案が提出され、ESRS基準が改訂される方向にあります。また、日本では2025年3月5日にサステナビリティ開示基準を公開しました。
IFRS/ISSBとESRSは、基本的な枠組みにおいて高い相互運用性を有していますが、適用範囲や具体的な開示要件においていくつかの重要な相違点があります。ESRSはより広範なステークホルダーを対象としたダブルマテリアリティを採用し、より詳細な必須開示項目を設定しています。一方、IFRSはより柔軟な枠組みを提供していますが、特定の基準がない場合はESRSを参照することが推奨されています。企業はこれらの相違点を理解した上で、適切な開示戦略を検討する必要があります。