ガイドラインの法規制が高まっている中、最近あちらこちらから「格付け評価のAランクを目指したい」「競合他社はこの指数に採用されているので、ここに追いつき追い越す必要があるので対策を考えたい」というような要望がよく聞かれます。

外部評価の採点は企業担当者にとって非常に重要、かつ社内の取り組みが加速される要素の一つであることは間違いありません。また外部の声の一つとして、誠実に対応していくことも大切です。

政策立案者を含めた昨今のESG論調に、こうしたチェックボックス運動だけでは本来の持続性やあらゆる課題解決の目的を達成できないとのがあります。残念ながら、サステナビリティ先進企業の中でもある程度これは事実であり、組織や社会の持続性を考えより良い世界を創造するためには、組織は全体を視て内省することが必要です。

企業の重要課題(マテリアリティ)を特定する際にリスクと機会を洗い出しますが、このリスクが格付け評価のスコアが低いことではなく、そもそも組織にとっての外部環境などを含めた組織全体のリスクは何かを洗い出すことであります。

長期的なビジネスのリスクを考慮することは、世界を総体的に視て、気候変動リスクなどの環境的影響や人権リスクなどの社会的影響を最小限に抑えるための措置を実施し、このようなリスクを最小限に抑えながら組織の価値向上に向けて機会を創出していくことです。こうしたことがESGの考慮および施策事項となるわけですが、この意味するところをよく理解していない組織も多く、最も「持続可能」な企業であっても本来の目的を見失う可能性があります。

このような現象は、およそ20年前にESGの前身である企業の社会的責任(CSR – Corporate Social Responsibility)から進化し、数値データや指標が組み込まれ高得点を狙う競技種目のように競争化してきています。

投資家などは、こうした定量データのみならずトップメッセージやビジョン、戦略、さらには企業文化などの定性的な情報もしっかりと見て投資を行なっていることを忘れてはなりません。

短期的な投資や、組織内の事業部ごとの部分的な取引や入札の際に、評価機関の評価が重要視されてきてはいますが、長期的な組織のあり方や本来の目的を見失っては本末転倒です。

サステナビリティ活動の一環であるESGは一夜にして成せるものでも一瞬にして高得点で達成されるものでもありません。何世代にもわたってより価値の高い、より収益性の高い、そして持続可能なビジネスを生み出す社内プロセス、つまりサステナビリティ・ジャーニー(旅路)なのです。

情報開示の報告基準が正式採択され、それに適用する前に、組織がより良い世界を創造するための真の価値とは何かを、今一度見直してみることをお勧めいたします。

Photo by Joshua Sortino