2023年6月、ESRS(欧州持続可能報告基準)の公開草案の更新版が公表されました。これに伴い、7月7日までのフィードバックを受け付ける公開協議が行われ、早ければ今月7月中にこの最終的な委任法が公表される予定です(2023年7月31日に採択ーCommission adoptionパラグラフ)。
本稿では、更新版の内容について概説いたします。
ESRS基準の基本構造
更新版の内容をお伝えする前に、再度ESRS基準の構造を抑えておきたいと思います。
ESRS1と2は一般原則として、すべての企業に対して報告義務となります。
ESRS2は、「ガバナンス」「戦略」「影響・リスク・機会」「目標・指標」の4つの開示要件から構成されています。この4つの要件に対して「環境」「社会」「ガバナンス」の3つのトピックごとの開示要件を設定して開示することとなります(横断的な基準)。
ESRS基準の更新内容
今回大きく分けて、以下の5つの内容が更新されました。
1、重要性(マテリアリティ)
開示要求事項すべてが重要性(マテリアリティ)の評価対象となります。
ただし、気候変動が重要なトピックではないと判断した場合、マテリアリティ特定評価の結果に関する詳細な説明を開示することが求められます。またEUの法令に由来する全てのデータポイントの表を開示することを要求しており、そのデータポイントがどこにあるかを証明し、データポイントがない場合は「重要でない」旨を示すことが求められています。
2、段階的な導入
2-1 すべての企業
初年度では、以下の情報を省略することができます。
- 気候変動以外の環境問題(ESRS E2/E3/E4/E5)に関連する、予想される財務的影響
- ESRS S1「自社従業員」に関連する特定のデータポイント(社会的保護、障がい者、業務上の不健康、ワークライフバランス)
2-2 従業員750名未満の企業
以下の項目を段階的に導入することができます。
- 基準適用初年度は免除
- スコープ3のGHG排出量データ
- ESRS S1「自社従業員」の開示要求事項
- 基準適用初年度から2年間は免除
- ESRS E4「生物多様性と生態系」の開示要求事項
- 自社従業員以外の全ての基準(ESRS S2/S3/S4)
- 生物多様性に関する基準およびバリューチェーンで働く労働者
- 影響を受ける地域社会
- 消費者・エンドユーザーに関する基準で規定された開示要求事項
開示要件への適応に時間をかけるため、特に複雑な開示(サプライチェーン、財務的影響などに関する間接的な情報の収集など)については、上記のように段階的導入が実施されることとなりました。
3、必須開示から任意開示へ変更
- 生物多様性移行計画および事業会社の「非従業員」に関する特定の指標
- 事業会社が特定の持続可能性トピックを重要でないと考える理由の説明
4、特定の開示における追加的な柔軟性
- 持続可能性リスクから生じる財務的影響およびステークホルダーとのエンゲージメントに関する要求事項
- マテリアリティプロセスに使用する方法論におけるステークホルダーとのかかわりに関する開示要求事項
- ESRS G1「事業行動」のうち、汚職・贈収賄に関するデータポイントの修正、自己犯罪を行わない権利を侵害しているとみなされる可能性のある内部告発者の保護に関するデータポイントを修正
5、その他
- EUの法的枠組みとの整合性
- GRI や ISSB を含むグローバルな基準設定イニシアティブとの相互運用性の向上
- 編集上の変更
今回の更新版における最大の変更点は、段階的導入です。欧州委員会の理想主義的な基準から現実的な基準へと変更されたことは、欧州を含む報告対象となる企業にとって大きな救いとなることでしょう。
冒頭にお伝えしたとおり、早ければ7月中には最終的な委任法が公表される予定です。引き続き、ESRS草案の動向に注目していきます。
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