企業は、従業員や取引先をはじめ、株主や地域社会そして地球環境など企業活動に関係を持つあらゆるステークホルダーに対して、社会的な責任を果たすべき、というCSR (Corporate Social Responsibility)の考え方に基づいて企業活動を行っています。
こうした取り組みを環境、社会、ガバナンスの側面から幅広く社会へ報告するために作られた報告書が、サステナビリティレポートです。
サステナビリティレポートを通じて企業は、自社の取り組みを説明し、社会的な責任を果たすことを示すだけではなく、ステークホルダーに対して自社が将来目指している方向性を示すことができます。
これにより、企業が直面するリスクと機会についてより透明性を高めることができ、ステークホルダーは企業のパフォーマンスや自分たちに及ぶであろう影響についてより深い洞察を得ることができます。
このような過程における意思決定は、財務情報のみに基づいて行われるのではなく、環境、社会、ガバナンスなどの非財務情報に関連するリスクや機会を考慮することが多くなって来ました。サステナビリティのテーマは、こうした意思決定のプロセスにますます組み込まれるようになっています。
サステナビリティレポーティング ガイドライン
世界中の企業がサステナビリティレポートを採用するようになるにつれ、幅広いステークホルダーがサステナビリティレポートをより効果的に評価・比較できるようにするための基準(ガイドライン)が数多く登場しています。
最も広く採用されているガイドラインは、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)です。これは、企業活動を環境、社会、経済の3つの側面から評価する「トリプル・ボトムライン」の手法をガイドラインに採用したものです。特に意思決定プロセスに様々なステークホルダーが参加することを要請する点は、企業の透明性はもちろんのこと、信頼も構築できるメリットがあります。
欧州のサステナビリティレポーティング・ガイドライン(NFRD, CSRD)
現在、欧州におけるサステナビリティレポートの法的な枠組みは、NFRD (Non-Financial Reporting Directive 「非財務情報に関する指令」)に基づいています。
この枠組みは、組織単体及び連結グループのいずれにおいても、会計年度の平均従業員が500人以上の組織に適用されています。また貸借対照表の合計が2000万ユーロを超え、かつ/または連結ベースで売上高が4,000万ユーロを超えている組織にも適用されています。
2021年10月に欧州議会がNFRDを改訂し、企業の社会的及び環境的課題をどのように運営・管理するかについての情報開示指令「Corporate Sustainability Reporting Directive (CSRD)」を導入しました。
今後5年以内には、このCSRDに基づいて財務情報と非財務情報を統合したレポーティングガイドラインが策定される予定であり、意思決定のプロセスには両視点を組み込むことが必須となります。
また、欧州に支社を置く非EU企業も、2028年ごろには報告義務化が予定されています。
こちらについては、別途、詳細をお伝えいたします。
サステナビリティレポートの主な対象読者
さて、企業がサステナビリティレポートを発行すると、一体誰が読者となるのでしょうか?
先述したように企業は、あらゆるステークホルダーに対して非財務情報を開示しているという点から、すべてのステークホルダーが読者とも言えるでしょう。
ではすべてのステークホルダーとは、具体的に誰でしょうか。企業によって異なりますが、例えば、従業員、株主&投資家、顧客、サプライヤー、地域住民などが考えられます。
最近では、投資家が投資を行う際の一つの判断材料としてこのサステナビリティレポートを重視しています。
最新のサステナビリティ投資額は、主要5市場(米国、カナダ、日本、オーストラリア、欧州)で35兆ドルに達し、過去2年間(2018~2020年)で15%増加している事実から、レポートを発行していない企業には投資しないとも言えるのではないでしょうか。
従業員については、従業員の定着率や忠誠心の向上に寄与するため、企業の実態を非財務の視点から報告することが重要です。これは、ひいては従業員全体にプラスの影響を与え、最終的に企業の業績を向上させることができます。
サステナビリティレポートの種類
サステナビリティレポートにはいくつか種類があります。
CSRレポート
サステナビリティレポートは、主に企業視点での取り組みを報告していますが、CSRレポートは社会からの視点で企業の取り組みを報告するものです。
つまりCSRレポートは、企業が社会的責任をどのぐらい果たしているかを判断する一つの物差しとなります。
近年、上場企業に限らず、中小企業が社会的責任を果たしているかどうかという視点が強くなり、中小企業が取り組む第一歩としてCSRレポートの重要性が増しています。
CSRレポートでは、GRIガイドラインの主に環境と社会側面の要請を採用しているものが多いです。
統合報告書
統合報告書は、主に国際統合報告評議会(IIRC)による財務情報と非財務情報を統合するフレームワークを採用した報告書です。
このフレームワークでは、財務と非財務を統合する「統合思考」を基に、短中長期にわたる価値の創造、維持、または毀損を考慮した統合的な意思決定と行動につなげることを推奨しています。
組織の資本間の相互関係、ステークホルダーのニーズや関心への対応、事業戦略の構築、資本に関連する活動の実績などを報告します。
サステナビリティレポートの事例
最後に、さまざまな業界のレポートをこちらに紹介します。ご興味のある企業などのレポートをぜひ読んでみてはいかがでしょうか。