前回のサステナビリティレポートとは?に続き、今回は、このレポートがなぜ重要なのか?サステナビリティレポートは、企業のビジネス戦略を強化し、さらに発展させるためにどのように役立つのか。こうした視点でレポートの重要性について解説していきます。

サステナビリティレポートの背景

1990-2000年初期にかけて、世界の大企業の数多くに、環境破壊やコーポレートガバナンスに関する不祥事事件などが発覚し、社会から企業の社会的責任が求められるようになってきました。こうした状況はステークホルダーの信頼を低下させるだけではなく、より幅広い透明性を求めて、社会や市民は、企業から誠実な情報を得るための活動を活発化してきました。

その結果、情報開示という形で企業の社会的責任を開示する報告書「CSRレポート」「サステナビリティレポート」などの必要性が浮上しました。

つまり、なぜ重要かということをこの背景に立ち戻り簡潔に言えば、企業の社会的責任を果たすため、ということがいえます。

何よりも組織が持続可能な開発に対してどのように考えて取り組んでいるのか、将来に向けた活動の途中経過を報告することが求められてきました。企業が社会に対してどのような影響を及ぼし、また社会からどのような影響を受けるか、ということを説明することが重要です。

環境的・社会的な懸念が将来のビジネスやステークホルダーとの関係性に影響することから、このサステナビリティレポートに時間と資源を投資することで、どの企業も持続可能な課題に対処することが可能となります。

では具体的にどのような視点が重要で、かつメリットとなるのかを企業の内部的・外部的側面のそれぞれから見ていきましょう。

サステナビリティレポートのメリットー内部的側面

1. リスクと機会

企業は現状を把握するために包括的なレビューが必要です。これは持続可能な課題に対する障壁やボトルネックを確認することを意味します。例えば、原材料の調達から販売・廃棄までのバリューチェーン、従業員の満足度、グローバル・ローカルに関わるサプライヤーとの関係性(サプライチェーンマネジメント)、マーケティングなどが考えられます。

こうしたカテゴリーにおいてそれぞれのリスクと機会がどのように直面しているのか。ビジネスにはどのような影響を与えるのか、運営コストの削減、バリューチェーンの最適化、各フェーズにおけるCO2排出量なども含めて把握していきます。

事業の外部環境の変化を予測し、整理することができるようになると、組織のレジリエンスが高まり効率的に事業を行うことができます。

2. 財務情報と非財務情報の統合

前回のインサイトでもお伝えしたように、財務情報と非財務情報を統合して報告することが、今後より一層求められてきます。

IIRCのフレームワークにもあるように、組織が財務側面と非財務側面を統合して考える(統合思考)を行うことにより、企業の価値を高める要素のひとつである無形資産まで把握して、目標達成に結びつけることができます。

組織内で統合思考を実践することは容易ではありません。しかし、統合思考を可視化することで投資家をはじめとしたステークホルダーからの信頼を得ることは想像に難くないでしょう。

3. 従業員とのエンゲージメント

近年、労働者は自分と同じ価値観を持つ組織で働きたいと考えています。例えば、環境にどれだけ配慮しているか、その方針や戦略はあるのか。また、人権問題などの倫理的な制度を持っているかなど、サステナビリティの取り組みについて関心を寄せています。

たとえば、価値創造に重点を置いている企業の約60%は、サステナビリティに企業文化や従業員エンゲージメントを組み込んで企業運営を行っています。

こうした要素を組み込んで活動し報告することで、従業員のモチベーションを高めることができます。その結果、従業員の定着率や忠誠心の向上に寄与し、組織の業績や価値の向上にもつながります。

サステナビリティレポートのメリットー外部的側面

4. 好評価につながる

外部的な側面の一つには、企業の誠実性やブランド評価などを向上させる、または結果的に向上することが見込まれます。

環境と社会側面で不正な行為を行なっていないかなどを管理運営の過程でチェックし、サステナビリティを推進し、そして表明していくことが後々あらゆる方面からの評価につながります。こうした評価によってステークホルダーからの信頼につながり、総合的に企業の価値向上にもつながります。

前回のインサイトでもお伝えしたように、近年は投資家が企業のサステナビリティレポートを投資の判断材料の一つとしているという背景から、投資や格付けの評価を左右することは間違いありません。

5. 社会のステークホルダーとのエンゲージメント

昨今、わたしたちの社会が大きく変化している背景には、あらゆるステークホルダーからの目が厳しくなったことが言えます。企業が顧客や従業員、サプライヤーなどとの関係性を良好にするためには、持続可能性に対する課題を抽出し、それに取り組み、実際に証明しなければなりません。

このようにサステナビリティレポートは、企業の社会的責任を果たすために長期的な戦略を強化し、あらゆるステークホルダーとの対話や関係性を維持するための手段となります。

アクセンチュアがおよそ1230人のCEOに調査を行なったところ、その約80%が、サステナビリティはグローバル市場における優位性を獲得する手段であると回答しています。

このような昨今の状況、そして今後の組織経営や事業運営を踏まえて、このサステナビリティレポートを発行せずに企業の永続性や価値向上を実現するには、非常に困難であると言えるでしょう。


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