ここ数年、サステナビリティ界隈で略語文字「CSRD」「ESRS」「SDGs」「ESG」「GRI」「IIRC」「TCFD」などが多く用いられ、企業の担当者はもちろん、一般的にわかりにくくなってきています。

こうした現象は、私たちが本来注力すべきである社会経済および環境課題の解決に危機をもたらすのではないかという考察があります。

一度これらの略語、語彙を整理して本来の解決に向けたアプローチや目的について整理しておく必要があります。

サステナビリティ・レポーティングのスタンダードとフレームワーク

そこでまず語彙および組織を大きく分けて2つに分類してみます。

分類内容実態(一例)
基準(スタンダード)を発行する組織基準:報告主体組織が満たすべき品質の要請

各項目について「何を」報告すべきかという具体的な基準や指標が整理されている
GRI, EFRAG(ESRS), 
IFRS(IIRC, SASB)……
フレームワークおよび指針を発行する組織フレームワーク:情報を文脈化するための「枠」

明確な定義がない場合には、実践される。
ただし実践方法そのものを定義することはできない。

また、あるテーマ・トピックについてどのように考えるかについてのガイダンスを提供する。
しかし定義された報告義務はない
TCFD, TNFD, UNGC, CDP, SDGs, WBCSD, PRI, UNEP FI, NFRD/CSRD……..

ただし、両方の活動を行う組織もあり、必ずしも明確に分類できるわけではありません。

基準もフレームワークも、法律で義務付けられているか、またはステークホルダーの大多数によって承認されているか、同業界および投資家からの要求によって権威を得ています。

基準は「要請項目に対して組織のガバナンスや保証、モニタリング、そして従業員トレーニングなどと共に世界中であらゆる規制を行う必要がある。つまり規制の実施能力こそが基準の特徴である」と、Deloitte社のグローバル企業報告リーダーが述べています。

基準とフレームワークを比較すると、基準はより厳格で徹底したものであると言えます。

現在、世界規模での報告基準は、GRIとSASBで、それぞれ異なる読者と報告範囲で構成されています。

欧州サステナビリティ報告基準とISSBの財務情報の開示基準

そんな中、サステナビリティレポートの基準がここ数年で大きな変化を迎えようとしています。

欧州委員会は、2021年4月に企業の持続可能性報告指令(CSRD=Corporate Sustainability Reporting Directive)を採択し、現在適用している非財務報告指令(NFRD=Non-Financial Reporting Directive)を改正しました。

今後、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG=European Financial Reporting Advisory Group)が策定している欧州サステナビリティ報告基準(ESRS=European Sustainability Reporting Directive)が採択されれば、欧州企業及び欧州に支社などを持つ非EU企業は、この基準を適用することとなります(ドラフト案が2022年11月中に発行予定)。

このESRSは、投資家を含むマルチステークホルダーを対象に、ダブルマテリアリティに基づいた構成となる予定です。現在GRIとEFRAGが共同作業を主導しています。2023年6月30日までには第一版を採択することを目標としています。

またIFRS財団は、新たに設立された国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)において、サステナビリティ関連財務情報の開示基準を起草中であり、投資家のみを対象とした財務上の重要性に基づくものとなります。

IFRSとEUのESRSのアプローチは競合するものではなく、補完し合うものであると考えています。異なる基準は、異なる対象者のために、異なる目的を持っているとしています。

従来のように投資家に情報を提供することのみを目的とした基準は、より広範なステークホルダーに情報を提供するインパクト基準とは、異なる概念に基づいて構築されています。

従って、マルチステークホルダーを対象とした企業のインパクト報告に特化した唯一のグローバル基準であるGRIとESRSおよびISSBの協働は、財務と非財務(持続可能性)の基準について、共通のコアとなるダブルマテリアリティの構造を作り上げることができるのです。

こうした概念構造に従って開示報告を進めていくと、将来のレポーティングのあり方や経営そのもののあり方を問う必要性も今後出てくる可能性があります。

CSRD及びESRSの詳細については別途お伝えいたしますが、まずは現在のフレームワークとスタンダードの定義および実態との関連性を理解することが重要です。

そして今後の枠組みの編成を見据えて、一連の開示作業の整理および体制づくりなどに取り組んでいかれることをお勧めいたします。