2022年11 月 23 日、EFRAG は ESRS の最初の草案を承認し(11月15日)欧州委員会 (EC) に提出しました。 この草案は 、2023 年 6 月に EC によって採択される予定です。さらに11月28日には、欧州議会と欧州理事会はCSRD案の暫定的な合意に達しました。

今後、欧州企業をはじめ一部の非欧州企業にも適用される可能性があるため、早期にこの概要を把握し報告書の発行準備に取り掛かることが必須となります。

そこで本稿からシリーズで、CSRD/ESRSの概要をはじめ、適用ポイントや、現在、協働作業を実施しているGRIとの関連性、さらには該当するであろう日本企業の対応ポイントや一般的なFAQなどについて概説していきます。

第一回目は、CSRDの適用範囲および開始時期などを含めた全体概要と最初の草案内容、4つの適用ポイント、そして日本企業として考えられる対応について概説いたします。

なお、2023年7月31日にCSRD指令およびESRS基準が採択されました。そちらの内容は、こちらから一読できます。

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NFRDからCSRDへ

現在、欧州にはサステナビリティに関する開示基準 NFRD (Non-Financial Reporting Directive「非財務情報開示指令」)があります。これは従業員500人以上の上場企業および銀行や保険会社などに適用されています。

欧州は、2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする「気候中立」を野望とした「グリーンディール」を掲げており、その中でタクソノミーやSFRD(Sustainable Finance Disclosure Regulation:サステナブルファイナンス開示規則)と関連して、サステナビリティ関連の企業開示を強化するためにこのNFRDを改め、法的な拘束力を持たせたCSRDを定めました。

CSRD:  Corporate Sustainability Reporting Directive 企業サステナビリティ報告指令

欧州企業の持続可能性に関する情報開示を強化および標準化し、財務情報と環境的・社会的(インパクト)情報を統合して開示する欧州委員会の取り組み

NFRDからの主な変更点は以下となります。

NFRDCSRD
適用対象組織銀行や保険会社を含む、従業員500人以上の欧州域内の大企業1, 欧州域内企業
次の 3 つの基準のうち少なくとも 2 つを満たす欧州の大規模事業
– 250人以上の従業員
5,000万ユーロを超える純売上高
2,500 万ユーロを超える総資産
(2023年10月17日改訂)

2, 非欧州企業(欧州域外企業✴︎1
欧州に子会社や支店を持つ日本企業については、実質的な事業活動があることを前提に、次のうち1つ以上を満たす場合に適用
– 欧州域内において1億5000万ユーロを超える純売上高(連結ベース)
– 子会社(大企業または上場企業)または支店(4000万ユーロを超える純売上高)を1つ以上持つ
適用開始時期2018年度a, NFRDを適用している欧州の大企業:
2024年度実績/2025年報告
b, NFRD適用外だが、上記の基準のうち2つを満たす欧州企業:
2025年度実績/2026年報告
c, 上場している欧州の中小企業:
2026年度実績/2027年報告
d, 非欧州企業(該当する日本の大企業)
2028年度実績/2029年報告
適用会社数11,600社およそ49,000-50,000社
独立保証制度任意必須
限定的保証:CSRD実施後3年以内
合理的保証:CSRD実施後6年以内
報告書フォーマットオンラインまたはPDFデジタルアクセス(XHTML形式)で発行し、欧州単一アクセスポイント(ESAP)モデルを用いて、デジタル分類に従って「タグ付け」を保証

*1:CSRDが欧州のローカルルールであるため、欧州域内の日本企業100%出資子会社については、1番目の欧州域内企業として2つの基準を満たす場合に適用されます。

親会社として日本企業が欧州域外にあり、その親会社がCSRDに基づいた情報開示を実施し、第三者保証を受けている場合には、この日本企業100%出資子会社は、情報開示の報告が免除されます。その場合に子会社は、親会社の名称と登記上の事務所ならびに免除措置を適用した旨を開示することになります。

ただしこの場合は、「第三国の基準と同等性が認められる場合には、免除される」とあり、日本のサステナビリティ報告基準がこのCSRD/ESRSと同等な基準であると欧州委員会が認められた場合に免除ということになります。

ESRSの概要

ESRS: European Sustainability Reporting Standards 欧州サステナビリティ報告基準

CSRDを基に、EFRAG(EFRAG=European Financial Reporting Advisory Group「欧州財務報告諮問グループ」)が策定している欧州サステナビリティ報告基準

次にCSRDに基づいたサステナビリティ報告基準であるESRSの概要として、開示の構成をみてみましょう。

  1. Sector agnostic: セクター共通項目
  2. Sector specific: セクター個別項目
  3. Entity specific: 各企業の固有項目
  4. Article 8 of Regulations 2020/852: EUタクソノミー

今回の草案は、1番目のセクター共通項目の基準案となり、欧州委員会は2023年6月までに採択する予定となっています。2番目については、2024年6月までに採択予定です。

実際に11月23日に合意された最新の草案をみてみましょう。

ESRSは、環境、社会、ガバナンスを包括的にカバーする12の基準でダブルマテリアリティの概念に基づいて持続可能性報告の法体系の基礎を提供するものです。

組織は自社がマテリアリティと特定した項目については、すべて開示することになります。

要請カテゴリーテーマ内容要請レベル
ESRS 1 & ESRS 2
(横断的な基準)
一般原則戦略、ガバナンス、マテリアリティ必須
ESRS E1 – E5環境E1 気候変動
E2 大気汚染
E3 水・海洋資源
E4 生物多様性・生態系
E5 資源利用・サーキュラーエコノミー
マテリアリティ項目による(但しE1がマテリアリティでないと結論付け、ESRS E1 気候変動における開示要求事項の全てを省略する場合、事業者は、気候変動に関する重要性評価の結論の詳細な説明を開示)

(ESRS 1 P6>32)(Link: Commission adoption>Annex – C(2023)5303>245pages
ESRS S1 – S4社会S1 従業員
S2 バリューチェーンにおける労働者
S3 地域社会
S4 消費者とエンドユーザー
マテリアリティ項目による
ESRS G1ガバナンスG1 事業活動マテリアリティ項目による

前回から改訂された主な点としては、用語および構造の調和、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)およびグローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)との相互運用性、開示要件を原案から40%削減(例:G2)、マテリアリティに関係なく報告しなければならない項目(例:E1)を含む、マテリアリティへのアプローチの明確化などが挙げられています。

ESRSに適用する主な4つのポイント

草案の法律化を踏まえて今後積極的に対応するために、4つのポイントをまとめました。

1. 統合報告の概念

ESRSは企業の報告書として、財務とインパクト(環境的・社会的影響)情報を開示する必要があるため、統合報告フレームワークのガイドラインを取り入れることが強く推奨されます。そこでは無形資産の要素を含めた開示が求められてくるため、統合的なインパクトを測定する準備を始めることが推奨されてきます。

2. ダブルマテリアリティの実施

ダブルマテリアリティは、すべてのステークホルダーを十分に考慮したサステナビリティ戦略を構築するために必要な足がかりとなるものです。ダブルマテリアリティの原則により、組織の対内外的影響を区別でき両視点を開示することで透明性を高め、グリーンウォッシュの防止につながる可能性があります。

3. サプライチェーンにおけるデューディリジェンスのプロセス化

NFRDからCSRDへと改正され、適用対象範囲が拡大されサプライチェーンの範囲が広がり、さらには「ESRS S2 バリューチェーンにおける労働者」の要請を通じて、サプライチェーンにおけるデューディリジェンスを実施することがより求められてきます。またCSRDと同様に欧州のグリーンディール政策の一つとして、現在、「企業持続可能性デューディリジェンス指令」(The Corporate Sustainability Due Diligence Directive = CSDDD)の発効準備が進められています。このような背景も伴ってグローバルなバリューチェーン全体における持続可能で責任ある企業行動が、より求められてきます。

4. 保証制度およびデジタルアクセスの導入

上記のNFRDとCSRDの違いの表にもあるように、企業が信頼できる情報を提供するためには、非財務情報の独立した監査と認証の義務が必須となります。具体的にはCSRD実施後3年以内に限定的保証、実施後6年以内に合理的な保証を得ることを検討しています。

さらに企業は、報告書をデジタルアクセス(XHTML形式)で発行し、欧州単一アクセスポイント(ESAP)モデルを用いて、デジタル分類に従って「タグ付け」を保証することが求められています。

今後に向けた準備 -日本企業にとって想定されるケースおよび選定ポイント

上述の通り、早ければ日本企業の欧州現地法人が適用対象となる可能性があります。そのような場合に備えて、以下のようなケースを想定し、それぞれの選定ポイントを抑えておくことが考えられます。

A:EU現地法人が主体となって対応する、または連結子会社の1 社※1が連結ベースで対応するケース

  • 現地の組織内にCSRDに対応できる人財・責任者や部署などはあるか。ある場合は、対応可能な知見を持っているか。ない場合の対策として、新たに知見を持った人財を現地で雇うか、本社からのサポートは可能か、現地の専門家や外部団体などへ委託・提携などは可能かどうか
  • 現地法人だけで報告を実施するのが不可能な場合、今後どのように独立させていくか。その場合のコストなどはどれぐらいか
  • SFDR(サステナブル・ファイナンス規制)と関連として、投資家がサステナビリティに与える負の影響(PAI)の情報(特にグローバル企業としてグローバルな情報)を入手できない場合、投資判断に影響が出てくる可能性があるかどうか(親会社へPAI情報を求めてくる可能性など)
  • 上記と関連して、競合他社との差別化につながるかどうか

※1: 過去5年間で連結売上高が1位の子会社が代表して開示。2番手以降の子会社の開示を免除する

B:日本の親会社が連結ベースで対応するケース

  • 子会社免除措置を適用した場合、欧州委員会がCSRD/ESRSと同等の基準である日本のサステナビリティ報告基準をどう評価・判断するか。2023年11月時点では、日本国内のサステナビリティ報告基準は存在していないこと。ただし、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、日本のサステナビリティ開示基準を開発中であり、今後の動向を注視していく必要がある。
  • とはいえ、数年後には域外適用となることを想定して、適用開始当初は上記のAケースで対応しながらグループ全体の組織体制の整備をはじめ、域外適用に向けた準備をどの段階で始めるか

次回は、現在のレポート国際基準であるGRIとESRSの関連性について概説いたします。

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