現在のサステナビリティ報告基準の基礎として、GRI スタンダードが世界で最も広く使用され、世界の大手企業のうち上位 250 社の 73% 、さらには世界の5800社のうち68%で採用されているという調査結果があります。
このような状況の中、ESRSの法律化を踏まえて、現在GRIを使用して報告している企業にとっては、どのような準備を行えばよいのか、どのぐらい相違点があるのか、また現在、開示業務を実施していない企業にとってもさまざまな課題が出てきます。
本稿はCSRD/ESRSの連続シリーズの2回目として、ESRSとGRIの関連性として整合点や相違点、さらには双方の相互運用性の活用方法を概説いたします(連続シリーズの1回目はこちら)。
なお、2023年7月31日にCSRD指令およびESRS基準が採択されました。そちらの内容は、こちらから一読できます。
欧州に現地法人、子会社、支社をお持ちの日本企業さまへ。本シリーズ記事をまとめた「CSRD/ESRS対策 早わかりハンドブック」を進呈いたします。ご希望の方はこちらから。
ESRSとGRIの関連性
GRIは初期段階からEFRAGと協力してESRSの開発に積極的に関与しながら、両基準の相互運用性を確保し、企業における報告負担と課題を最小化することに重点を置いてきました。
つまり、他の基準に比べてGRIを使用して報告している企業は、ESRSへの移行が合理的に行われ、かつ将来のESRS要件に迅速に対応できる可能性があります。GRIに従っていない企業は、GRIに従ってできるだけ早く準備を開始することが推奨されます。
GRIは、2023年11月30日付で、ESRSの要求事項を満たす方法について、ESRSとGRIのマッピングを提供しています。
ESRSとGRIの主な整合点
現在GRIを使用している企業は、既存の報告プロセスや開示業務を利用して、ESRSの要求事項を統合することが可能であると考えられています。主な整合点は以下となります。
トピック、テーマおよび一部の指標 | ESRSは、一般原則、環境、社会、ガバナンスの4つのテーマで12の基準から構成。 GRIも、一般原則(GRI1-3)、環境・経済・社会(200-400)のテーマで構成 |
マテリアリティ分析 | 両基準とも、マテリアリティ特定分析を前提にした報告 |
開示に必要なデータ管理および収集プロセス | 両基準とも、基準に準拠するために要請項目に関連するデータの管理と収集プロセスが必須 |
ステークホルダーエンゲージメントのプロセス | 両基準とも、影響を受けるステークホルダーとの対話によって、重要な影響、リスク、機会に関する結論についてインプットまたはフィードバックを提供 |
ESRSとGRIの主な相違点
一方で、いくつかの違いが見られます。
相違点 | ESRS | GRI |
マテリアリティ分析評価 | ダブルマテリアリティ: 財務的マテリアリティとインパクトマテリアリティが基準。 すべてのレベル(テーマ、個々の影響、指標)で分析。 (ESRS 1 P7>3.3)(Link: Commission adoption>Annex – C(2023)5303>245pages) | インパクトマテリアリティ: 環境・社会的影響であるインパクトマテリアリティが基準。 テーマレベルでの分析を推奨(例:気候変動、労働安全衛生)。 |
開示事項に対する省略理由の提示 | 事業上の地位を損なう場合のみ、開示を控えることができる。 バリューチェーンの上下流から必要な情報を収集できない場合、そのデータまたは情報の推定値を提供することを推奨(ただし情報の質的特性を満たすこと)。 (ESRS 1 P12>5.2)(Link: Commission adoption>Annex – C(2023)5303>245pages | 「該当せず」 「法令による禁止」 「機密保持上の制約」 「情報が入手不可」 の4つのいずれかと説明を付記。 バリューチェーンの上下流から必要な情報を収集できない場合は、許容する。 |
報告対象期間の終了時点における短中長期の計画を開示 | 報告期間の終了時点で、 短期(財務諸表で報告期間として採用した期間)、 中期(短期の終了から5年まで)、 長期(5年以上)を開示 (ESRS 1 P13>6.4)(Link: Commission adoption>Annex – C(2023)5303>245pages | 特になし |
このようにESRSとGRI基準の違いは、詳細な指標というよりは、むしろ報告のアプローチと考え方にあります。
一般的にESRSは、企業を法的に拘束するためGRIよりも詳細で厳しい要請内容となっており、GRIでは任意となっている要請内容の多くが、ESRSでは必須項目となっています。
GRI未利用や参照レベルの企業さまへーGRIとESRSの相互運用性の活用方法
現在、サステナビリティ報告を実施していない主な上場中小企業にとっては、今からGRIを使用することで、ESRSを見越した有用性を評価することに役立ちます。
またGRIを参照している大企業にとっては、既存の開示業務プロセスへシームレスに統合できます。
つまり現在GRIを利用していない、または参照レベルの企業さまは、今からGRI2021を利用し、可能な限り準拠レベルを目指すことを推奨いたします。
ダブルマテリアリティ実施の際には、GRI3で強調されている「環境と人々に対する顕在化および潜在的な負の影響を把握し、その範囲、規模、修復不可能性によって負の影響を特定する」ことに準拠していれば、すでに50%ぐらいはESRSに遵守していると言えるでしょう。
前述のESRSとGRIマッピング表を利用しながら、具体的に以下のポイントでGRIとESRSの相互運用性を活用します。
- マッピング表を利用して、現在の開示状況を把握する
- 任意開示であるGRIと、法的開示であるESRSとの相互運用性があることを理解した上で、GRIの準拠レベルを認識する
- 特にダブルマテリアリティ分析評価を実施する際に、「GRI3:マテリアルな項目2021」を再読し、環境と人々に対する顕在化および潜在的な負の影響を把握し、その深刻度として範囲、規模、是正困難度(修復不可能性)によって負の影響を特定する
- 特定したマテリアリティ項目のみをGRI内容索引へ掲載する(つまり、項目別スタンダード全てのベンチマークは不要)。ただしレポートの内容には、マテリアリティ以外の項目を掲載しても可。
次回は、具体的な準備ポイントを対象範囲別に概説いたします。
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