欧州のESRSの第一草案が欧州委員会へ提出され、2023年6月を目処に正式に採択される予定です。採択されればCSRD指令として約50,000社に適用され、子会社や支社を持つ非欧州企業にも適用されることとなります。
現在のサステナビリティ報告基準の基礎として、GRI スタンダードが世界で最も広く使用され、世界の大手企業のうち上位 250 社の 73% 、さらには世界の5800社のうち68%で採用されているという調査結果があります。
このような状況の中、ESRSの法律化を踏まえて、現在GRIを使用して報告している企業にとっては、どのような準備を行えばよいのか、どのぐらい相違点があるのか、また現在、開示業務を実施していない企業にとってもさまざまな課題が出てきます。
本稿はCSRD/ESRSの連続シリーズの2回目として、採択前におけるESRSとGRIの関連性として整合点および相違点を概説いたします(連続シリーズの1回目はこちら)。
なお、2023年7月31日にESRS基準が採択されました。そちらの内容は、こちらから一読できます。
欧州に現地法人、子会社、支社をお持ちの日本企業さまへ。本シリーズ記事をまとめた「CSRD/ESRS対策 早わかりハンドブック」を進呈いたします。ご希望の方はこちらから。
ESRSとGRIの関連性
GRIは初期段階からEFRAGと協力してESRSの開発に積極的に関与しながら、両基準の相互運用性を確保し、企業における報告負担と課題を最小化することに重点を置いてきました。
つまり、他の基準に比べてGRIを使用して報告している企業は、ESRSへの移行が合理的に行われ、かつ将来のESRS要件に迅速に対応できる可能性があります。GRIに従っていない企業は、GRIに従ってできるだけ早く準備を開始することが推奨されます。
ESRSとGRIの主な整合点
現在GRIを使用している企業は、既存の報告プロセスや開示業務を利用して、ESRSの要求事項を統合することが可能であると考えられています。主な整合点は以下となります。
トピック、テーマおよび一部の指標 | ESRSは、一般原則、環境、社会、ガバナンスの4つのテーマで12の基準から構成。 GRIも、一般原則(GRI1-3)、環境・経済・社会(200-400)のテーマで構成 |
マテリアリティ分析 | 両基準とも、マテリアリティ特定分析を前提にした報告 |
開示に必要なデータ管理および収集プロセス | 両基準とも、基準に準拠するために要請項目に関連するデータの管理と収集プロセスが必須 |
ステークホルダーエンゲージメントのプロセス | 両基準とも、影響を受けるステークホルダーとの対話によって、重要な影響、リスク、機会に関する結論についてインプットまたはフィードバックを提供 |
ESRSとGRIの主な相違点
一方で、いくつかの違いが見られます。
相違点 | ESRS | GRI |
マテリアリティ分析評価 | ダブルマテリアリティ: 財務的マテリアリティとインパクトマテリアリティが基準。 すべてのレベル(テーマ、個々の影響、指標)で分析。 (ESRS 1 P7>3.3) | インパクトマテリアリティ: 環境・社会的影響であるインパクトマテリアリティが基準。 テーマレベルでの分析を推奨(例:気候変動、労働安全衛生)。 |
開示事項に対する省略理由の提示 | 事業上の地位を損なう場合のみ、開示を控えることができる。 バリューチェーンの上下流から必要な情報を収集できない場合、そのデータまたは情報の推定値を提供することを推奨(ただし情報の質的特性を満たすこと)。 (ESRS 1 P12>5.2) | 「該当せず」 「法令による禁止」 「機密保持上の制約」 「情報が入手不可」 の4つのいずれかと説明を付記。 バリューチェーンの上下流から必要な情報を収集できない場合は、許容する。 |
報告対象期間の終了時点における短中長期の計画を開示 | 報告期間の終了時点で、 短期(財務諸表で報告期間として採用した期間)、 中期(短期の終了から5年まで)、 長期(5年以上)を開示 (ESRS 1 P13>6.4) | 特になし |
このようにESRSとGRI基準の違いは、詳細な指標というよりは、むしろ報告のアプローチと考え方にあります。
一般的にESRSは、企業を法的に拘束するためGRIよりも詳細で厳しい要請内容となっており、GRIでは任意となっている要請内容の多くが、ESRSでは必須項目となっています。
なお、現在の報告プロセスや開示業務を踏襲してESRSに遵守するための技術的なガイダンスが、GRIより2023年6月ごろに提供される予定です。
GRI未利用の企業さまへ
現在、サステナビリティ報告を実施していない主な上場中小企業にとっては、今からGRIを使用することで、ESRSを見越した有用性を評価することに役立ちます。
さらに非欧州企業で現在GRIを利用していない、またはあまり力を入れていない場合は、今からGRI2021を利用することを推奨いたします。
次回は、具体的な準備ポイントを対象範囲別に概説いたします。
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