※2025年2月26日に公開されたオムニバス法案の内容についてはこちら

2023年1月現在、CSRDが暫定的な合意に至り、ESRSは2023年6月を目処に採択される予定となりました。

この状況を受けて、CSRD/ESRSの概要シリーズの第1回目でCSRD/ESRSの概要を、第2回目でESRSとGRIとの関連性を概説いたしました。

第3回目は、今から備える今後のレポーティング業務として、実践的な準備ポイントを対象範囲別に概説いたします。

※なお、2023年7月31日にCSRD指令およびESRS基準が採択されました。そちらの内容は、こちらから一読できます。

欧州に現地法人、子会社、支社をお持ちの日本企業さまへ。本シリーズ記事をまとめた「CSRD/ESRS対策早わかりハンドブック」を進呈いたします。ご希望の方はこちらから。

広範囲に渡る報告要件への実践的な備え

ESRSの要請される項目および範囲が広がり、企業はバリューチェーン全体で活動と情報を把握し開示することとなります。つまり今までと報告の境界線が根本的に異なります。まずはこれを大前提に4つのポイントで準備を行うことを推奨いたします。

現状把握およびギャップ分析

CSRDおよびESRS要請項目を読み、現状で開示している項目との比較を行いギャップを把握します。そのギャップの中で優先順位をつけ、早期から活動および開示できるものをリストアップします。ここで開示の短中長期計画を策定すると、将来に向けてより効果的です。

インパクト分析

企業が環境・社会に与えるポジティブとネガティブなインパクトを顕在的・潜在的に分析し評価します。実際にどのぐらいの影響を与えているのか(例:規模や範囲)など、より詳しく分析することが要請されています。

ガバナンス体制

ガバナンスにおける取締役会や経営陣については、サステナビリティの原則に沿った構成へと昇華しましょう。例えば経営陣のスキルや多様性、報酬方針などの導入。財務とインパクト(サステナビリティ)それぞれにおけるリスクと機会を同じレベルで検討できるような仕組みを検討し導入します。

データ品質のテスト(保証)

上記のような取り組みを通じて収集されたデータを、一度、外部保証に審査してもらいましょう。例えばScope 1.2.3を含む移行計画など、CSRDでは将来的に合理的保証が求められていますので、今から保証への対応も準備しておきましょう。

対象範囲別の準備ポイント

次に対象範囲別の準備ポイントを見てみましょう。

なお、第一弾は2023年7月に採択されましたが、引き続きセクター別や域外適用の基準についての更新が予定されていますので、準備期間および内容については暫定的であることをご承知おきください。

500人以上の企業(現在NFRD適用企業)

FY準備内容NFRD/CSRD適用
2023– NFRD適用
– 上記の4つのポイントを実施
– CSRD要請項目に関連するデータ収集の準備
– バリューチェーン全体の分析評価を開始
NFRD(24年発行)
2024CSRD適用開始
– 上記の4つのポイントを実施
– CSRD要請項目に関連するデータ収集の準備
– バリューチェーン全体の分析評価を開始
– 法規制の更新をフォロー
CSRD(25年発行)
2025上記同様CSRD(26年発行)

欧州における200人以上の上場企業

FY準備内容NFRD/CSRD適用
2023– 持続可能性報告書のための措置とプロセスの実施検討開始
– 上記の4つのポイントを実施
– 法規制の更新フォロー
N/A
2024– 持続可能性報告書のための措置とプロセスの実施を開始
– CSRD要請項目に関連するデータ収集の準備
– 上記の4つのポイントを実施
– 法規制の更新フォロー
– バリューチェーン全体の分析評価を開始
N/A
2025CSRD適用開始
– 上記の4つのポイントを実施
– CSRD要請項目に関連するデータ収集の準備
– バリューチェーン全体の分析評価を開始
– 法規制の更新をフォロー
CSRD(26年発行)

欧州における上場中小企業、小規模で非複雑な信用機関など

FY準備内容NFRD/CSRD適用
2023-2025法規制の更新をフォロー(中小企業特有のセクターを問わない基準を策定中)N/A
2026-2028移行期間中は中小企業のオプトアウトが可能であり、2028年まで指令の適用が免除されるN/A

ただし、このオプトアウトが可能な企業は、自社のバリュー チェーンの持続可能性に関する情報を収集する義務があることを覚えておくとよいでしょう。これはCSRD対象の大企業が、サプライチェーンを通じて中小企業にESRS要件(例:Scope3や労働条件など)を求めてくるからです。

また未上場の中小企業はCSRD対象外ですが、自発的に持続可能性に関する活動や報告を行うことは、将来的には同じ未上場の中小企業や同業界へ、さらには上場へ発展するインセンティブになりうる可能性もあります。

欧州に子会社や支社、現地法人を持つ非欧州企業(域外適用)

非欧州企業については、欧州域内で1億5千万ユーロの純売上高がある、または欧州域内に少なくとも1つの子会社または支店を持つ企業に適用されます。これらの基準は、2024年6月30日までに、欧州委員会が委任状を通じて採択することになっています。

FY準備内容NFRD/CSRD適用
2023-2025– 法規制の更新をフォロー
– 上記の4つのポイントを実施
– 現地の組織体制、担当者の知見、保証へのコストなどの検討を開始
N/A
2026-2027– 法規制の更新をフォロー
– 上記の4つのポイントを実施
– 引き続き現地の組織体制、担当者の知見、保証へのコストなどの検討および決定
– CSRD要請項目に関連するデータ収集の準備
– バリューチェーン全体の分析評価を開始
N/A
2028CSRD適用開始
– 上記の4つのポイントを実施
– CSRD要請項目に関連するデータ収集の開始
– バリューチェーン全体の分析評価を実施
– 法規制の更新をフォロー
CSRD(29年発行)

新しいレポーティングの時代に向けて

法規制によって企業へ求められる要請事項や報告範囲が広がることは、企業にとってチャンスであります。求められる要件を軸に考えデータ収集だけに追われることなく、組織自身がその要件を満たすことができるよう組織を持続可能性へと発展させていくことが望ましいです。発展ポイントとして、

企業の持続可能性を再定義する

シングルマテリアリティからダブルマテリアリティへと移行し、組織における真のサステナビリティとは何かを再考します。

財務と持続可能性を常にセットで考え行動する

企業内の部門を超えて持続可能性に関する部署を巻き込んで議論します。CFOとCSOが常にタッグを組んで議論し、今まで別々であった戦略や計画、課題などを一緒に取り組みます。

活動から報告まで一連のプロセスを構築する

絶えず変化する現代社会の中で企業があらゆるリスクを軽減し、組織の回復力を生み出すためには、体系的な活動および開示プロセスを構築します。

こうした取り組みを通じて想定されるアウトカムは、

従業員の持続可能性の醸成新たな取り組みについての議論からデータ収集まで、社内の協力関係を築きながら相互理解を深めていくと、従業員一人ひとりの持続可能性の深化につながります
確固たる比較可能性と透明性の生成特にマテリアリティについては、責任の所在を明らかにすることにより誠実に開示している企業は、罰金制裁、およびそれに伴う風評被害などを回避できます
持続可能な投資の増加正しいデータを整備し積極的に開示を行えば、より多くの資本が企業に投資されます

Photo by Brett Jordan on Pexels