2023年12月14日、EU理事会と欧州議会は、企業の持続可能性デューディリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive =CSDDD)に関して暫定合意に達しました。

この指令は、企業における人権リスク(児童・強制労働、労働安全など)および環境リスク(GHG排出、生物多様性の損失、廃棄物処理など)に対するデューディリジェンス(悪影響を特定、防止、または少なくとも軽減および救済し、最終的に停止すること)を求める義務を定めています。

自社の事業、子会社の事業、およびビジネスパートナーの事業に関して、人権と環境に及ぼす顕在化および潜在的な悪影響に関する義務を課すものです。

しかし2024年2月28日、EU理事会において、CSDDDを承認する合意に至りませんでした

この背景として、特にドイツは、この規則が企業に与える官僚的かつ潜在的な法的影響を懸念(企業に課される損害賠償責任が大きいと)して支持しないと脅したため、理事会での承認に関する採決は2024年1 月に延期され、その後イタリアも支持を撤回したと報じられたため、さらに疑問が生じていました。

この理事会では、この指令を承認するための最後の試みが行われましたが、フランスが土壇場で、新規則の適用範囲を大幅に縮小し、従業員数500人の基準案ではなく、従業員数5,000人以上の企業のみに適用することを提案したため、この努力はさらに頓挫した形となり、事実上、約80%の企業がCSDDDの義務から除外されることとなりました。

EU理事会と欧州議会は今後、立法文書を再交渉する必要があり、指令は次の議会の任期まで延期されることとなります。2024年6月のEU議会の選挙およびハンガリーが2024年後半にEU理事会の議長国に就任することから、多くのEU加盟国にとって、EU指令は次の選挙まで延期されることとなりました。

このような結果を受けて、支持する加盟国や各業界団体などは声明を発表し、例えば450の市民団体を代表する欧州企業正義連合(ECCJ)では、「企業の説明責任と環境保護にとって嘆かわしい後退」であると述べています。

その後2024年3月15日、常任代表委員会(COREPER)の会合で、適格過半数(少なくとも15の加盟国、EU人口の65%に相当)に達し、CSDDDは数週間の遅れと加盟国間の交渉を経て、承認に至りました。 この指令は来月4月にEU議会で採決される予定となりました。

ただし、適用基準が引き上げられ適用要件が段階的に導入されるなど、随所に変更が発生しています。
詳細については、以下のグレーの欄よりご確認ください。

デューディリジェンスの重要性

企業のデューディリジェンスとは、自社の事業活動に関するリスクや機会を把握するための重要な手法です。

主な目的と意義は、

  • 法的な確実性
  • 他社との公平な競争条件
  • より持続可能な競争力の強化
  • 顧客からの信頼と、労働者として従業員の権利の向上
  • リスク管理と適応性の向上
  • 人財、投資家、公的な調達者にとっての魅力的な組織の向上

    などが考えられます。

さらに消費者や一般市民にとっては、

  • 人権のより良い保護(市民的、社会的、文化的および子どもを含む社会的弱者の権利)
  • 現在および将来の世代にとってより健全な生活・労働環境
  • 企業に対する信頼と透明性の向上
  • 被害者の司法へのアクセス向上

    などが考えられます。

対象企業と適用範囲

当初の適用企業および範囲は、以下の内容でしたが、2024年3月15日、EU理事会による承認にて、適用基準が引き上げられ、適用要件は段階的に導入される予定です。

  1. 従業員数500人以上、世界売上高1億5,000万ユーロ以上の欧州企業
  2. 従業員数250人以上、世界売上高4,000万ユーロ以上の欧州企業、その50%が高リスク部門※1で発生
  3. 欧州市場で売上高1億5,000万ユーロ以上の非欧州企業(欧州委員会は指令の範囲に該当する非欧州企業のリストを公表する予定)

    ※1: 高リスクとは、繊維・衣料・履物の製造および卸売業、林業・漁業を含む農業、食品の製造および農業原材料の取引、鉱物資源の採掘および卸売業、関連製品の製造、建設業のいずれかに2,000万ユーロ以上の売上高がある場合に限る
適用基準の引き上げによる内容の変更(2024年3月15日、EU理事会による承認)
最終文書の企業に対する義務の削減(2024年3月15日、EU理事会による承認)

金融業界について

今回の暫定合意によると、金融業界は一時的に指令の対象から除外されています。ただ、今後のEUによる影響評価に基づいて、将来的には包含される可能性があるため、見直し条項が設けられる予定です。

下流の財務活動には適用なし(2024年3月15日、EU理事会による承認)

見直し条項が盛り込まれており、これはEUがCSDDD発効から2年以内に「金融セクターに合わせた追加のデューデリジェンス要件」を検討することを意味します。

民事責任と罰則

民事責任に関しては、労働組合や市民団体を含む影響を受ける人々の司法へのアクセスが強化されました。悪影響を受けた当事者が損害賠償を請求できる期間を5年間と定めています。さらに請求者は、証拠の開示、差し止め措置、および請求者の訴訟費用の制限が設けられました。

民事責任規定の削除(2024年3月15日、EU理事会による承認)

企業の不正行為に対して労働組合が法的措置を講じることを可能にする民事責任規定は、最新の草案から削除されました。 その代わりに加盟国には、企業が自らの行為に対して責任を負うための「合理的な条件」を提供する柔軟性が与えられることになります。

罰則については、まずEU各国においてこの指令を遵守しているかどうかを監視する監督当局を指定・設置します。

違反企業、また罰金を支払わない企業に対しては、「名指しで恥をかかせること(Naming and shaming)」や全世界の純売上高の5%を上限とする罰金などの罰則が科されます。

さらにビジネス・パートナーの一部による環境または人権への悪影響が確認された・違反した企業において、これらの影響を防止または是正措置などが実施できない場合、それらのビジネス関係を終了させなければなりません。

この協定には、デューディリジェンス・プロセスの措置の一つとして、影響を受ける利害関係者との対話と協議を含む有意義な関与を実施する企業の義務が含まれています。

遵守に向けた準備

CSRD/ESRSと同様およびそれらと関連性があることを背景に、実際の適用開始までに早期準備・実行に取り掛かることが推奨されています。具体的な準備ポイントとして5つ紹介します。

  1. 人権・環境リスクと影響のレビュー
    自社の事業とバリューチェーンにおける負の影響を理解・把握する
  2. 内部統制
    リスク、内部監査、コンプライアンス、法務部門などと現状把握および共有を行う
  3. 方針・ガバナンスと監督
    人権および環境の方針とガバナンス(推進体制など)にデューディリジェンスを取り入れる。
    方針および対策の有効性を監視する
  4. 報告書との整合性
    ESRS要請項目とのギャップを把握する
  5. 公表とエンゲージメント
    レポートを通じてデューディリジェンスを公表し、社内外と対話を行う

この法律は歴史的で画期的なものである。ラナ・プラザの悲劇から10年、企業はバリューチェーンにおける潜在的な不正行為に責任を負うことになる。この暫定合意を、あの惨事の犠牲者への賛辞とし、未来の社会や経済を形成するための出発点としようー利益や短期主義よりも、人々の幸福と地球の繁栄を優先する世界へ

ララ・ウォルターズ欧州議会議員